羽水

もっと!も〜っと!

ゆで卵2つ分の胃袋

ストレスに冒された人間は得てして具体性の欠けた思考に陥り判断能力が鈍り与えられた情報をうまく処理しきれず精神的な負債を抱え、他人に訴えを起こすこともできずに粘度の高い停滞に身を沈めていくものである。

きっと今の私もそうだ。

そうなのだと思い込むことで意識的に理性ある行動をとり、崩れかかった足元の砂をかき集めるための選択を検討することができる。

 

掃除をした。

 

以前も大して散らかっていたわけではないのだが、袋入りのジャガイモを廊下に放置していたり食材を冷蔵庫にしまった後の空のビニール袋を口を開けたそのままの状態で床に放置していたりととにかく雑然とした状態であった。

過去の私の足跡。数週間前に部屋の中を動き回った私の影が床の上やらにこびりついている。私は記憶力が悪く、昨日どんな一日を送ったかさえ考え込まずにはとても思い出せない。覚えていないのに、過去の私のしるしがそこかしこに散らばっている。

これはキャッシュだ。呼び出したとて意味のないキャッシュ。散らかった物理的障害物が古い私を強制的に部屋の中に引き留め続け、常に最新の状態であろうとする現在の私の足枷となっている。削除すべきキャッシュ。

雑多に積み重ねていたモノたちを解体し、捨ててよいものはゴミ袋へ、必要なものはあるべき場所へ収納する。しばらく手をつけていなかった棚の上は埃が溜まっているのでキッチンペーパーと住宅用洗剤できれいに拭き取る。のびきったコード類は近くに落ちているリピートタイプの結束バンドでまとめる。最後にフローリングワイパーと掃除機で床の埃やら小さなゴミやらを片付ける。

大体きれいになった。人に写真を見せたらミニマリスト以外は「きれいに片付いた部屋だ」と評価するのではないか。

 

平置きに積み重なったモノを整理する段階で大量のクリアファイルが出てきた。全部カバンに入れて持ち歩いた記憶がうっすらあるのに、それぞれをどういう用途で分けて使っていたのかが判然としない。この中身はまた後で整理しよう。

あとは重要書類も見つかった。数日以内に提出しなければたちまち生活が立ち行かなくなることが確定するという類の書類だ。手をつけたくないな。恐ろしい事態がすぐそこに迫っているというのに、このままブレーキを踏まないという選択肢が依然ポップしたままだ。これこそが恐ろしい。恐ろしいだろ。私をあんまりなめるなよ。

 

まあ書類の存在は一度頭の中から追い出すとして、散らかっていない部屋というのは居心地が良い。無駄なものを一切排除した状態というわけではない、モノたちが整頓され、カテゴリや使用するタイミングを考慮したそこそこ適切な場所に配置されている状態だ。うれしい。今夜はよく眠れそうな気もする。

 

 

うれしいのでゆで卵を3つ食べた。

今日はこれ以外に胃に何も収めていなかったのだが、2つ食べたところで満腹になってしまい、それが悲しかった。うれしさはなかなか持続しないが、悲しさは尾を引くことが多い。それに、楽しい・うれしいをもっと感じよう! という動機づけは、我に返るともの悲しさを増幅させるのであまり意味がない。脳は基本的にネガティブだ。

 

今回収納場所に困った物はクローゼットの中に押し込んだ。そこには引越しのときに解体を後回しにした段ボールも眠っている。次はクローゼットという名称未設定フォルダを整理しなければならない。こう書くと新たなタスクが目の前に降ってきたかのようだが、ここにネガティブな意味はなく、この「ねばならない」が明確になることが整理整頓のいちばんの効能なのだと思う。

 

はあ 書類書きたくない